「俺に盗めないモノなんて、きっとこの世に何1つないんだよ」
「それが例えアナタの心でもね」
「そうだ今日はアナタの1番素敵なモノを頂こう」
そう言って、自称世界一の怪盗は笑った。
「何だよそれ」
「輝く宝石の持ち主は、その宝石の価値を見出だす前に失ってしまうものさ」
どうやら教えてくれる気はないらしい。
向かい合って座った夕陽の射す教室。
下校のアナウンスが流れ始めた。
「そろそろ帰ろうか」
さっきの話を有耶無耶に打ち切り、二見が立ち上がる。
そっと手を差し出され
「お城までお送りいたしましょう、ジュリエット」
耳元で囁かれたなら、俺はその手をとるしかなかった。
帰り道、他愛もない話をしながら2人で歩く。
改めて、二見は話し上手だと感じた。
話す分だけではなく、聞き手にまわるのも上手い。
何気ない話にも花が咲く。
話す事が心地好くて、笑みもこぼれた。
2人きりになると、二見は俺の笑顔が好きだとよく口にした。
「全てが愛しいけど、笑った顔が1番魅力的」
「みりょ…!?オマエ、冗談やめろよ」
「そんなに照れないで。怒った表情もいいけどね」
「………」
いつでも二見は笑っていて、本当に楽しそうだったから、俺は何も言えなかった。
いつもいいと言うのに聞かない二見は、今日も家の前まで俺を送った。
「じゃあまた明日な」
「うん、………」
今日は妙に歯切れが悪い気がして、思わず聞き返す。
「どうしたんだ?」
「あのさ、我儘、聞いてくれる?」
「…?まぁ、内容によるけど…何だよ」
「アナタの笑顔、俺だけのモノにならないかな」
その顔に、息が詰まった。
「…む、りだろ…そんなの…」
「だよねぇー、ちょっと独り占めしたくなっちゃって、ごめんね」
表情をいつものものに戻して、微笑む。
「それじゃ、またね」
「あぁ…」
くるりと背を向けて、二見は帰っていった。
あの時、なんと返事をすればよかったのだろう。
二見のあんな顔は見たことがなかった。
泣きそうな瞳をしているのに、まっさらな表情で、愛しさを口にして。
胸が締め付けられて、息ができなくて、何も考えられなかった。
なんと答えればよかった?
オマエが望んだ答えは何なんだ?
「二見…」
もう、返事は返ってこないけれど。
アイツの"またね"は訪れないままでいる。
家の前で別れを告げた次の日、二見は学校へは来なかった。
学校に連絡もいれてないらしく、先生に何か知らないかと聞かれたが、知るよしもない。
槌谷も何も知らないと言った。
次の日も、二見は姿を現さなかった。
携帯も繋がらない、メールも返信なし。
アイツの行動がよめない。
そして3日目に、二見は帰ってきた。
青白い顔をして、穏やかな笑みを携え、棺に横たわって。
誰も何も知らなかった。
行方を眩ました2日間。
冷たくなった二見を最初に見つけたのは母親だったらしい。
夫婦で実家に帰省いたらしいが、息子と連絡がとれない事を不審に思い戻ってきたという。
彼はそこに居た。
自らの部屋で眠っていた。
「大丈夫?」
槌谷が隣から声をかけてきた。
大丈夫な訳ねぇだろ
昔ならそう言えたのに。
「あぁ…」
口を吐いて出たのは言葉にならない声。
二見
オマエはすごいな
本当に全部盗んでいくんだから
俺の心も
俺の想いも
オマエの全てを
だけどあの時言った
"アナタの1番素敵なモノ"が俺にはわからない
オマエは何を連れて行ったんだ?
教えろよ
この声が届いてるなら
「今日は空が綺麗だね」
槌谷が話しかける。
「あぁ…」
同じ言葉しか返せない俺に。
「まるでジュリエットみたい」
槌谷が続ける。
「あぁ…」
俺に向けて。
「二見はきっとあの空にいるんだよ」
白いリノリウムの部屋で。
「ぁ…」
槌谷がこちらを向いた。
「だからジュリエット、泣かないで、お願いだから…前みたいに、笑おうよ…」
俺の濡れた頬に手を添えて、泣いた。
二度と笑う事のない、俺の横で。
ごめんね槌谷
でもね
誰にも渡したくなかったんだ
1番素敵な笑顔も
気まぐれな優しさも
ジュリエットの全部を
だから
誰かに盗られる前に
俺がもらっていく
ごめんね
横暴なロミオで
でも
それくらい
ジュリエットが好きって事
ごめんねジュリエット
ひどい男だね
だから最後の我儘
先に行ってるから
アナタのスピードで追いついて
ごめんね
―――――――
ひどいお話でスミマセン…。
当初はラブラブしたものを書く予定だったのですが、いつの間にかこのように…。
重い想いと重いお話し。
全国の二主好きの方に謝罪します(土下座)
2007/10
(「足りないんだよ。」は台詞だけだったので)多分初めて書いたクロック小説(?)
何故かしら私が最初に書く話は暗い。
2008/2/3(修正・加筆) 無伊